田中成道の日記

田中成道の日々の日記です。

YOUNG SEIDO(12) 〜真夜中のワルツ〜

みなさんこんばんわ。
昨夜は石川秀昭さんのバックで鍵盤を弾きました。
ギターには東京から下条テケさん(去年の石田洋介さんの関西ツアーぶりです☆)
ドラムには始めましての京都で活躍中の吉岡さん
ベースにはお世話になってる(人生の?)お師匠さん
当日合わせただけでしたが素敵なバンドでした。
ライブも本当に一瞬で終わってしまった。


ライブには前日石川さんと一緒にPARA-DICEで共演をした
オガサワラヒロユキ君も見に来てくれました(彼の製作中のCDに僕も鍵盤で参加します☆)。


ビールを一杯だけ飲んでオガサワラ君と終電に飛び乗り無事帰宅。
いろんな人と繋がっていた事を再確認する夜だった。
みんな繋がってるのですね。
繋がっていない人などいないと
思えたら
なんか嬉しくなってきて
エネルギー満タンになった気分。


なので
一度消してしまったYOUNG SEIDO再掲します。








僕達は我慢していた。





開店したてのライブハウスは僕とエディとウエイトレスぐらいしかいなくて
お客もめったに来ない。
その間にエディと遊んだりする事が多いのだが
この日はドラムのスティックの先でお互いのズボンの上から股間を優しく持ち上げ合って
どちらが長く耐えられるか勝負をしていました。


くだらない遊びや、経験の薄い僕に夜のテクニック(?)を教えてくれたり
エディは兄弟のようだったり時に性教育の先生でもあった。







ある日、僕は住んでいるアパートの二階にあるダンスクラブに来ていた。
隣人の蘭丸薫に呼び出されたのである。
僕もどんなところか興味もあったので付いていった。

ちょうど定休日でダンスクラブは静かで暗かった。

自分の住んでいる部屋の下がこんなところだなんて
と思うと不思議な気分。
そういえば夕方から仕事なので部屋の下がにぎやかに感じた事は無かった。




ダンスフロアの片隅にはテレビが設置されていて
蘭丸薫はビデオデッキが咥えていたカセットを飲み込ませた。
どんなダンスが行われているか見せてくれるらしい。
テレビ画面にはダンスコンテストのような映像が流れた。


ふんふん
と僕はビデオを見ていたのだが
急に蘭丸薫は

「今、良い事したね!」

と、感極まり
ビデオを巻き戻した。

「ここ!このステップ!」

なんども同じステップの所を見直す。

それに合わせて蘭丸薫も踊りだしてしまった。
何度も何度も繰り返す。
完全に一人の世界。

よく分からないのだけれど
汗だくで感極まってる蘭丸薫(32歳、東京出身)を見ながら
僕(17歳)は逃げてしまいたい、
と思うのでした。






蘭丸薫はたまに僕の部屋に訪れる。

部屋で僕が自分で作った曲を歌ってると
蘭丸薫は玄関をノックしてきて、入るなり
「今の曲は誰の曲?!」
と聞いた。
僕の作った曲と聞くと
驚いて
「良い曲だね。目の前で歌ってくれよ」
とせがまれた。
照れくさくて目の前では歌いませんでしたが
これ以降
僕が部屋で歌ってると
隣の部屋からユニゾンで歌ってくる声が聞こえてくるようになる。

怪奇現象。







またさらにある日。
ライブハウスの仕事が終わり、
珍しく早く部屋に帰りました(ちなみにライブハウスからアパートまで歩いて二分ほどの距離)。
深夜三時すぎ、
シャワー浴びて(沖縄ではアパートにはシャワーしかついていない)寝るかな、
と思ってると
玄関の戸を鳴らす音が聞こえた。
蘭丸薫だろうがいつもよりも激しく戸を叩いている。



なにごとか

と、玄関を開けると
蘭丸薫は息をきらしながら(隣の部屋から走ってきたので走行距離5mほどww)
「夢の中で…
新しいステップが浮かんだんだ…」
と言った。




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????
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僕に関係ある話かな…
あ、
駄目だ
瞳孔開いてしまってる
完全に
この人おかしい…



蘭丸薫は僕の手を取り
「女性役をやってくれ!」
と、男らしく言った。


「ステップを再現したいんだ!」





……
なんだかやばいぞ。
部屋に上がらせてはいけない。


「ここでなら良いですよ…涙」
玄関の1.5平方メートルほどのスペースで
蘭丸薫と僕とのワルツが始まった。

蘭丸薫は太ってるし走ってきて汗だくだ。
そして二人とも下半身はトランクスのみ。
「足をもっとこう」
蘭丸は僕の片足を持ち上げ引っ張る。
股間同士がぶつかりそうになる。。。
限界。


僕は蘭丸からスッと離れ
「夜も遅いのでやめときましょう」と切り出した。
まだ頭にステップがよぎっているのか不満足なのか
蘭丸薫は上の空で帰って行った。




隣の玄関が閉まるのを確認し
僕は部屋中の窓を閉め、鍵をかけおびえながら眠った。






これ以降
蘭丸薫は部屋に来なくなったし
僕も会わないように徹した。







おかげか
数ヵ月後には隣の部屋は空き部屋となっていた。
東京に帰ったのかな。
17歳の夏が終わった。









そして秋が過ぎ。
冬がきた。
ライブハウスにアミがお客として来ていた。




アミは内地の学校に行ってるのだが今は冬休み。
去年見たときよりもさらにアカぬけて店内がざわつくほど美人である。






他のバンドメンバーが声をかけたりしたが
アミは僕を指名した。




最初は向き合って座ってたのだが
アミは僕の隣に座ってきた。
?!
「せいちゃん、トランクス?」
お尻を触られた。

アミは恥ずかしがりもせず
むしろ笑みを浮かべながらまっすぐ僕を見ている。
アミは机の下で僕の手を取った。
「東京ではこうやって合図するの」
アミは僕の手の平をこそばしてきた。
「こ、こ、これは…?」
僕は真っ赤なスーツを着ていたが肌も同じくらい赤くなってるのではと思う。
「今晩どう?の、合図」




どっかーん!








心の中で僕は破裂して粉々になった。





なんだこの感覚。
今後の展開が決まってしまったかのような感覚。
今夜、僕はついに…


と師匠(エディ)を見る。
エディはギターを持って僕に目で合図を送っていた。
わかってますよ師匠。
ん?…エディの様子がおかしい。
「あれ?」
よく見ると他のメンバーも楽器を持って僕を見てる…
「夢オチ?…?」
ウエイトレスが走ってきた。
「ステージの時間です!」






「はうあっ!」




脳機能停止により状況を把握出来なかった。
急いでステージに向かう。あわてててセットリストを忘れてしまうほどに。
なんとか最後のショータイムを終えて、僕は少し落ち着いた。






僕は恋愛禁止だった。
まだまだキーボーディストとしてもまだまだなんだ。
女の子にうつつを抜かしてる場合じゃない。






真面目な顔でアミの席に行く。
アミはさらに酔いがましていた。
「セイちゃーん」
やばい。
やっぱりアミを帰せれない気がする。
外まで送る、と一緒に店を出た。






「セイちゃん家は?」
と尋ねるアミの目は酔ってなどいなかった。
逆に僕も安心して
僕の部屋に送った。そしてすぐにライブハウスへ。







とりあえず誰にも言ってはいけない
帰るまでは落ち着かない…
いや、帰ってからどうなるのだろう…心臓が破裂しそうです。





普通にライブハウスも終わり。
自分の部屋に帰る。







真っ暗な部屋にアミはいた。
住み慣れた自分の部屋とは思えない。





大きな窓から月の光が差し込んでいた。
静かだ。




アミもライブハウスでのテンションとはうって変わって
大人しい。





何かが近づいてきている。





そんな予感というか
本能というか
僕は
未知なる世界に少し恐怖した。






自分の体温、心を一定に保とう。
それぐらいしか頭にうかばない。







アミと二人、横に並んで座った。






喋ってるのか喋ってないのか分からないくらいの音量で会話をしていた。








そんな刹那
アミがふいに
「あ、猫!」
と言った。


窓の外の向かいのマンションの屋上に猫がいた。



「ほんと…」
振り返るとともにアミの影が僕を覆う。










昆虫がさなぎから成虫になる時
さなぎの中は液状になって成虫の体を作るそうです。
僕の体の中身も
溶けていった。
僕は一体どうなったんだ。







僕はさなぎ。







女性とまともに話が出来ない人間でした。
いつも自分が未熟だと思っていました。
誰もが僕を馬鹿にして笑ってると思っていました。
なにひとつうまくいく事なんてないと思ってました。






ひとつづつ
僕は何かを手に入れていけるのかな。
今日という日があるから
将来何かつかめたらいいな。








夜空が綺麗だった。








続く。




次回、YOUNG SEIDO(13) 〜イツオさん。僕は元気です。〜