田中成道の日記

田中成道の日々の日記です。

YOUNG SEIDO(9) 〜17歳(PART1)〜

こんにちは、
暑い日が続きます。
こちらはライブハウスの楽屋です。


今日もリーゼントをセットします。
僕が不器用なだけか、
後から入ってきたエディのほうがリーゼントのセット上手くなってしまった。
それでも先輩で年上(本当は年下)の僕は何事も負けてられない。
今日もスプレーで髪をカッチカチにするのでした。



ステージの合間はエディはお酒を作る手伝いしたり、
僕はフードを作ったりしていました。
そしてお客さんの席について一緒にお酒を飲みます。
指名されて座ったり、知らないお客さんだったら自分から声をかけて座って行ったり。とにかくお酒一杯でも稼いでくるようリーダーからの命により
ひたすら客の席についた。
エディは話が上手く、雰囲気も良かった。どんな人にでも臆することなく
笑いがとれた。
それに対して僕はというと
初対面では緊張し、慣れてきても話す話題も無く、
接客が苦手でした。
でも負けてられないので
とにかく飲んで飲んで飲みまくっていました。


働いていたライブハウスは繁盛していたわけではなかった。
客が来ない時は道端で客引きもした。



リーダーの母親が経営するスナックからお客さんを流してもらう事もしばしば。
ホステスさんがお客さんを連れてライブを見に来るのです。


僕やエディはお客さんを連れてきてくれるホステスのアケミ(源氏名)と仲良くなっていった。アケミは当時15歳、両親は中国人。学校はすぐ辞めて働き出したそうな。





ある日アケミに呼び出された。
女の子に呼び出される事なんて今まで無かった。


ドキドキしながら
僕は
「どうしたの?」
なんて聞いてみる。


「好きな人がいるの、
その相談に乗ってほしいさー」



健全な男の子ならその「好きな人」とは自分の事では?
と思うはず、
僕の心臓は8ビートから16分音符に変わった。




「エディって誰かと付き合ってるかしら?」





「エディ?!」
僕は表情を変えぬよう努めて心を隠した。
期待してしまった分恥ずかしい、というか
情けないというか
その心を覆い隠すべく
今後アケミの相談にちょくちょく乗るようになる。






昼と夜が逆転した生活は続く。
昼間は暑くて寝付けない。
カーテンを買うお金が無かったので日差しを受けながら寝てました。


外の庭からは大家さんの飼っていたジョンという犬が
毎日不定期に吠えて
よく起こされていました。

ある日イライラした僕は寝ながら窓を蹴ってガラスを割ってしまう。


怪我はしませんでしたが
大家さんは
「どうしたことか?!」
と心配していました。
その時の僕は自分でも自分の行動に戸惑っていました。








夏の終わり、

暑さはピーク。




僕は一年前のホームセンターで働いていた頃の出来事や心境を
今の状況に照らし合わせてたりした。
孤独で
どこにも僕の居場所は無く
誰も僕を必要としてくれない。


億劫であった。


旅して居場所を見つけたはずなのに
一年前とさほど変わりは無い。


そして
眠れぬ日々は続く。


ある日
外に出ようとすると靴が無い。


庭を探し回るがどこにもない。

しかし
いつも吠えているジョンが大人しい。


かがんでジョンの小屋を覗き見る。
ボロボロになった僕の靴があった。


日差しが強くなっていって
僕の体を心ごと真っ黒に焼いていく。

ジョンを殴った。
ジョンは鳴きながら小屋に隠れた。
僕は何かに飲まれそうになっていた。
今生きている事がどうでもよくなってしまいそうなほどに
最低な自分が心地よかった。











隣のカナシロさんとはもはや会う機会は少なかったが
カナシロさんの友人のイラブは無職なのでよく部屋に遊びに来た。


このイラブという男、悪い男ではないのだが
好きになれない。
シンナーをやってるせいか無職のくせに陽気でいつもお気楽であった。
カナシロさんの話ではイラブはカナシロさんから結構な額のお金を借りているらしい。
まあそれが好きになれない理由なのですが
それ以外は僕にくだらない方言を教えてくれたり遊びに連れて行ってくれたり
楽しい人なのです。




ある日、二人でビリヤードに来た。


最近イライラしがちな僕は気分転換にと来たのだが
借金があるはずのイラブの金払いの良さに頭にきてしまう。




「カナシロさんにお金返せよ」




つい、ぽろっと言ってしまった。
いつも笑顔のしまらない顔だったイラブは
目をつり上げ睨み、怒りをあらわにする。
「ふらー!(ばかやろう)おめーには関係ねーだろが!」


イラブはキューを投げ捨て帰って行った。
これ以後
イラブやカナシロさんに会う事は無かった。


僕もガラスの件などで
カナシロさんに会わす顔も無かったしイラブとは縁がきれて丁度良かった。
この件で僕は少しスッキリした。




夏が終わると一気に寒くなってきた。


僕は相変わらずアケミの相談に乗っていた。

そんなある日、アケミから手紙を渡される。


あれ?
アケミは走っていった。
あれー。
手紙を開けて見ると

相談に乗ってもらってるあいだにセイちゃん(ヤングセイドーの事)の優しさに
好きになってしまいました!

という内容。
……
僕は感動していました。
人から「好き」と
言ってもらえる事は
僕には
人から必要とされている
事と同等でありました。



そして初めて人から告白をされた事に
戸惑いを隠せない…
誰かに相談しなければ…
恋愛豊富なエディに…いや!
エディには相談出来ない…
あわわ…
どうしよう…
とか思ってるうちにあっという間に冬が来ました。
沖縄で初めての冬。




続く